Exhibition
at Quantum Art Festival Quantum Art Festival 2/4
https://www.artfesq.com/
Dates: 7 (Thu) - 9 (Sat) December, 2023
Venue: LIGHT BOX ATELIER 2F (6-13-1 Minami Aoyama, Minato-ku, Tokyo) Opening hours: 11:00 ~ 18:00 Free admission
ABSTRACT
量子コンピュータが生まれるような遠い未来において、
発明をする主体は人間だけではなく、AIがその大部分を担うようになるだろう。
ARTIFICIAL ADVISORY(アーティフィシャル・アドバイザリー)は、そのような仮説のもとに、AIがいかにして未来を描き得るのか、そして人間の知性はどのように応じるのかを探るアート的実験である。
本作品は、テクノロジー雑誌を模した『BASH』というマガジンの形をとっている。『BASH』には、2040年の量子コンピュータが誕生した未来が約60ページにわたって描かれている。すべての文章と写真は最新の科学論文や小説などを複雑に学習したAIによって生成されたものであり、編集をほとんど行わず(文章の整合性および文章量を調整するためのコピー&ペーストのみ)につくられている。
本作品は、AIでつくられた「一見もっともらしい(けれど完全なフェイク)」情報を、人間がつくったものととらえられやすいインターフェイスである「もっともらしいエディトリアルデザイン」を施したマガジンに実装している。
これにより、どこからどこまでがAIによってつくられた知識なのかわからなくなる未来社会の情報環境の質感を批判的に再現することを試みている。
すでに科学するAIは生まれはじめている
本作品の発端となった事象は、現在の科学の分野──すなわち人間知性の中心領域──において、生成AIを研究に用いることの是非が議論されていることである。
世界最大のプレプリントサーバー「arXiv」では、日々最新の研究が発表されている。最近の報告によると、OpenAIのChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)が、論文の査読(学術誌に掲載するにふさわしいかを判断する行為)にも使われ始めている (※1)。
一方、英科学誌『Nature』が1,600人を超える研究者を対象に実施したAIに関する意識調査(※2)では、研究者たちがAIに対して希望と不安のあいだで揺れている実情が明らかになった。半数以上が「今後10年間で、自身の研究分野においてAIツールが『非常に重要』あるいは『不可欠』になる」と予想しており、最も印象的かつ有用なツールとしてChatGPTとLLMを挙げている。
しかし同時に、科学研究への生成AIの適用については、68%が「誤情報の拡散」に懸念を示し、68%が「盗用の増加と検出困難化」を、66%が「不正確な情報の論文への流入」を問題視している。
科学は、これからも人間知性の産物であり続けるのだろうか?
それとも、人間とAIの協働による成果へと移行していくのだろうか?
そこから立ち上がってくる未来は、誰の未来なのか?
そもそも「未来」は、どのように発見されるのか——そして、誰がその発見を担うのか?
このような問いに対し、ARTIFICIAL ADVISORYは、あえて明示的な生成AIの表現を用いて、人間がAIとは異なる「本来的に人間的な未来」を創造するための「助言」を提示する。
*1 Can large language models provide useful feedback on research papers? A large-scale empirical analysis https://arxiv.org/abs/2310.01783
*2 AI and science: what 1,600 researchers think https://www.nature.com/articles/d41586-023-02980-0
LABEL
生成AIによるコンテンツには、近年ウォーターマークや専用アイコンを付与して管理する動きが広がっている。本プロジェクトでは、音楽シーンで使われてきた「PARENTAL ADVISORY(ペアレンタル・アドバイザリー)」ラベルに着想を得た名称と表示を採用している。
音楽の世界において、「PARENTAL ADVISORY」ラベルは単なる警告ではなく、むしろクリエイターの表現の一部であり、ある種のステータス・シンボルとして機能してきた。本プロジェクトもそれに倣い、AI生成コンテンツであるという単なる表示にとどまらず、その表現が社会に与える影響を批評的に問いかける“ラベル”として機能させている。
PROMPTS
NEUROCOOL:COOLING THE FUTURE
2040年、人類はついに地球の平均気温上昇を2度未満に抑えるかどうかの瀬戸際に立たされている。こうした状況のなか、「人間の体温だけを2度下げる」という、人間中心的かつ短期的な解決策が浮上する。その試みとして登場したのが、NeuroCool──脳を選択的に冷却するシステムである。
本作品ではこの発想のもと、砂漠地帯に生息するトムソンガゼルなどがもつ選択的脳冷却機構(Selective Brain Cooling)を人間に応用する方法について、ChatGPTにアイデアを提案させた。その結果、「NeuroCool」という名称や、マイクロ流体デバイスの活用といった要素がAIによって提示された。
興味深いことに、この過程で得られた知見は、マイクロ流体デバイスの新たな応用法の開発にもつながっている。
たとえば、末梢神経を冷却して局所的な疼痛をオンデマンドで緩和する技術についての研究(※)は、学術誌『Science』にも報告されている。ChatGPTがこの研究に基づいて発想したのかどうかは明らかではないが、その応答は、ある種の科学的連想を喚起させるものだった。
また、NeuroCoolのコンセプトに対して、ChatGPT自身が「これは地球温暖化の本質的な解決策ではない」という妥当な批判的視点も提示している。
*Jonathan T. Reeder et al. ,Soft, bioresorbable coolers for reversible conduction blocks of pe- rior nerves.Science377,109-115(2022). - DOI:10.1126/science.abl8532
REIMAGINE LIGHT
2040年の「量子生物学」の進展を想像するために、ChatGPTに第一人者ジム・アル=カリーリ(Jim Al-Khalili)による論文(※)を学習させ、2040年に到来するであろう技術革新を予測させた。
その結果として導き出された未来予測のひとつが人工光合成である。これに関連して、ChatGPTは“架空の科学ジャーナリストが執筆した記事”という体裁で一文を生成し、そこでは量子バイオセル(quantum biocell)という、あたかも新しい発明のような名称を提示した。
さらに仮想的な応用例として、この量子バイオセルが生体適合性のあるインターフェースとして皮膚に装着・移植される可能性にも言及している。科学的妥当性の検証はさておき、そこには多くの示唆的なヴィジョンが含まれている。
* Kim, Y.; Bertagna, F.; D’Souza, E.M.; Heyes, D.J.; Johannissen, L.O.; Nery, E.T.; Pantelias, A.; San- chez-Pedreño Jimenez, A.; Slocombe, L.; Spencer, M.G.; et al. Quantum Biology: An Update and Perspective. Quantum Rep. 2021, 3, 80-126. https://doi.org/10.3390/ quantum3010006
FROZEN TIME IN THE WAR
2040年、人間の寿命を延ばすことを可能にする「長寿医療」が実現されるという設定が構築された。だが、そうした医療制度が確立されると、「もっとも必要とする人に最適な資源が配分されない」という事態が起こりうると考えられる。
本作品ではこの背景のもと、ChatGPTにスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』(戦後の女性たちを描いた文学作品)を学習させ、その上で「気候難民の女性」という人格を生成(エララ)。ChatGPTにエララの人格になりきらせる指示を与え、作者とチャットによるインタビューを行った。このインタビューをすべて収めたものが「FROZEN TIME IN THE WAR」である。
Prompt given to the ChatGPT as a characterisation:
私は、難民キャンプで暮らしている女性です。未来、2040年には『長寿認証制度』が確立されており、エララという名の女性が政府の長寿医療を受けられるかどうかの審査を受けに来ました。彼女は戦争で荒廃したヨーロッパから逃れてきた難民で、行方不明になった娘を探すために長寿申請をしました。しかし、その申請は、まったく理不尽な理由によって却下されました。