第0回 東京在住のライターから、ロンドンの芸大生に。

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街の中心部に向かう地下鉄の座席は、一列すべてが異なる人種の人々で埋められていた。肌の色も、ファッションも、宗教も、話す言葉もバラバラだ。

目的の駅で地下鉄を降りると、プラットフォームは蒸し暑く、時おり下水の匂いが鼻をつく。「WAY OUT」のサインを目標に、狭く入り組んだ迷路のような通路を抜け、地上に出る。6月の冷たい突風が吹く中、人々が大勢行き来する交差点ではドレッドのストリートミュージシャンがレゲエで夏を呼んでいた。

ここが僕のこれから約2年間住む街、イギリスの首都、ロンドンだ。

ブレクジットど真ん中のメディア・スタディ

2019年5月28日、約1ヶ月間悩まされていた体調の回復を待って、僕は東京の成田国際空港からロンドンへと旅立った。渡英の主な目的はロンドンにある大学院への進学だ。僕は今年の9月から「ロンドン芸術大学(University of the Arts London)」の大学院に入学する。

翌日にはロンドン・ヒースロー空港に到着し、僕は大学の学生寮に入った。いつもの海外出張なら時差ボケに悩まされているところだが、入学の手続きや、自炊のための調理器具の調達、食料の買い出しなど、生活の準備に追われているうちに時差ボケはどこかへいってしまった。

渡英してからの慌ただしい1週間が過ぎると、僕は講堂の片隅にたくさんのイーゼルが置かれ、廊下には展示用のショーケースが並ぶ校舎で学ぶひとりの芸大生になっていた。

学生になったのは12年ぶりだった。

「僕」は大学を出たばかりの、いわゆる学生上がりではない。現在の職業はフリーランスのライターで、年齢は37歳だ。大学生の頃から始めたライターのキャリアは、今年で14年目になる。

僕は主にサイエンスやテクノロジー、それに関連するアートについて、インタビューを中心とした記事を雑誌やWebメディアで書いてきた。

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